3歳の子が、バナナが半分に折れたというだけでキッチンの床に崩れ落ちる。6歳の子が、ボードゲームに負けてドアをバタン。そんな瞬間、つい「この嵐を早く止めなきゃ」と思いがちですが、もっと役に立ち、ずっと先まで効いてくるのは、子どもが自分の気持ちに名前をつけられるようになることです。コントローラーを投げつける代わりに「イライラしてる」と言えたら、その子は一生使える道具を手に入れたということ。この記事では、大きな感情のさなかに幼い脳で何が起きているのかをやさしく解説し、年齢に合わせて家庭で感情の言葉を育てる具体的な方法をお伝えします。
落ち着かせることより、名前をつけることが大事な理由
子どもの心理を研究する人たちの間で、よく知られた言い回しがあります。「名前をつければ、なだめられる」。子どもが今感じているものに言葉をあてると、脳の「考える部分」が働きはじめ、「感情の部分」の熱が少し引いていくのです。ラベルを貼ること、それ自体が心を落ち着かせてくれます。
だからこそ、親の最初の仕事は、感情を直すことでも、素早く終わらせることでもありません。子どもがその気持ちに気づき、名前をつけるのを手伝うことです。「胸のなかがギューッとするこの感じは、怒りなんだ」と学んだ子は、心の地図をつくっています。その地図があれば、やがて立ち止まり、何が起きているかに気づき、感情に流されるのではなく、次にどうするかを自分で選べるようになります。
“子どもは、自分で気づけない感情を扱うことはできません。言葉こそ、私たちが最初に手渡してあげられる道具です。”
— 幼児教育の現場でよく語られること
まずは「4つの基本」から。そこから広げていく
幼児に40語もの感情リストは必要ありません。小さく、具体的に始めましょう。多くの子は、細やかなニュアンスに進む前に、4つの基本的な気持ちを土台にできます。
- うれしい——明るくて軽くて、飛び跳ねたくなる感じ
- かなしい——重くてしょんぼりして、泣きたくなる感じ
- おこってる——熱くてこわばって、足をドンドンしたくなる感じ
- こわい——ドキドキして体がふるえて、隠れたくなる感じ
この4つがしっかりしたら、少しずつ色合いを増やしていきます——イライラ、がっかり、ドキドキ、はずかしい、うらやましい、わくわく、ほこらしい。新しい言葉は、必ず体の感覚とセットにしてあげてください。幼い子は、名前をつけられるよりずっと前に、感情をまず体で感じているからです。「こぶしがギュッとなって、顔が熱くなってるね。それはイライラって言うんだよ」。
その瞬間になんて言う?すぐ使える短い声かけ
かんしゃくの真っ最中は、言葉は少ないほどいいのです。あふれかえった脳には、長い説明は届きません。自分の余裕がなくなってきたときに、パッと手を伸ばせる短いフレーズをいくつか用意しておきましょう。
- 問いつめず、実況する:「クッキー、すごく食べたかったんだね。がっかりしちゃったね」(「なんで泣いてるの?」よりずっといい)
- 気持ちを認めてから、方向を変える:「おこっていいんだよ。でも叩くのはダメ。代わりに足でドンドンしよう」
- 2つの言葉を出して、選ばせる:「今の気持ちは、心配?それとも怒ってる?」——選べることが、子どもに主導権をくれます
- 自分の気持ちも声に出す:「ママ、遅れそうでイライラしてきた。だから深呼吸を3回するね」
本当に感情があふれきっている子は、理屈を受けつけることも、教訓を学ぶこともできません。声のトーンを落とし、子どもと同じ目線までかがんで、まずは心をつなぎましょう。教えるのはあとで——波が過ぎて、その子が安心できてからで十分です。
年齢別ガイド
「どこまで期待していいか」は、幼児期のうちに驚くほど早く変わっていきます。今のわが子の姿に合わせて、期待値を調整してあげてください。
- 1〜2歳:ほとんどが体で感じる段階。名前をつけるのは親の役目です。子どもの表情をまねしながら言葉を添えて。「かなしいね。シャボン玉が割れちゃってかなしいね」
- 3〜4歳:気持ちの言葉を使いはじめますが、まだすぐにあふれてしまいます。大きなかんしゃくもごく普通のこと。基本の4つは、嵐のさなかではなく、落ち着いているときに練習しましょう
- 5〜6歳:もっと繊細な気持ちに名前をつけられ、2つのことが同時に本当でありうると理解できます(「初日は、わくわくするけどドキドキもする」)。物語やごっこ遊びにぴったりの年齢です
- 7〜9歳:出来事のあとで振り返れるようになります。「おこる直前、体はどんな感じだった?」と聞いて、自分を見つめる力と、早めの対処のコツを育てましょう
みんなが落ち着いているときこそ、力を育てる
親がやりがちな一番の間違いは、感情の話を「大事件のとき」だけしてしまうことです。感情の言葉は、ほかのどんなスキルとも同じ——本番のテストではなく、気楽な練習を重ねることで身につきます。ふだんの穏やかな時間にさりげなく織り込んでおけば、つらい気持ちが押し寄せたときには、その言葉がもう馴染みのものになっているのです。
- 絵本を読みながら手を止めて、「この子、今どんな気持ちだと思う?」と聞いてみる
- 「気持ちジェスチャーゲーム」——おこってる・ほこらしい・びっくり、を体で演じて当てっこする
- 毎日のふり返り:「今日、うれしかったことと、大変だったことは何かな?」
- 冷蔵庫に簡単な気持ちの表を貼っておき、言葉が出てこないときは指さしで伝えられるように
- テレビや映画のキャラクターの気持ちに名前をつける——プレッシャーのない入り口として
物語なら、感情を安心して探検できる
物語は、子どもが少し離れた安全な場所から感情を練習させてくれます。暗闇をこわがるキャラクターが、やがて勇気を見つける——そんな物語は、「今まさに自分のこと」というプレッシャーなしに、言葉とお手本の両方を子どもに渡してくれます。絵本が感情リテラシーを育てるいちばんやさしい方法のひとつなのは、こういう理由からです。
その物語の主人公が、わが子自身であればなおさら力を発揮します。初日の前にドキドキしながらも、それを乗り越えていく主役が自分の子どもだったら——その学びは、どんな一般的なキャラクターにも真似できないほど深く心に残ります。私たちの勇気の物語やおやすみ前のおだやかな絵本のいくつかは、まさにこの流れ——大きな気持ちに名前をつけ、それを乗り越えていく——を軸につくられています。物語がどんなふうにわが子の抱えるものを言葉にしてくれるのか、見本の絵本を見てみることもできます。
専門家に相談したほうがいいとき
大きな感情は、正常で健やかなものです。ただし、感情の爆発が激しく、頻繁で、年齢とともに落ち着いていかないとき。あるいは、子どもがずっと悲しそう・不安そうに見えるとき。または、その気持ちが睡眠・友だち関係・園や学校に日常的に支障をきたしているとき——そんなときは、かかりつけの小児科医や子どものカウンセラーに相談してください。早めに助けを求めることは、失敗ではなく強さです。
この記事のポイント
- 感情に名前をつけること自体が、心を落ち着かせる——「名前をつければ、なだめられる」で、脳の考える部分が働きだす。
- まずは4つの基本(うれしい・かなしい・おこってる・こわい)から。ニュアンスを増やす前に、それぞれを体の感覚と結びつける。
- 直すことや教えることの前に、まずつながって気持ちを認める。あふれきった子は、教訓を学べない。
- 感情の言葉は、かんしゃくのときだけでなく、ふだんの穏やかな時間に練習する。
- わが子が主人公の物語なら、大きな感情を安心して探検でき、名前もつけやすくなる。
よくあるご質問
子どもが自分の気持ちに名前をつけられるのは何歳ごろですか?+
多くの子は、うれしい・かなしい・おこってる、といった基本的な気持ちの言葉を2〜3歳ごろから使いはじめますが、それよりずっと前から、大人が感情のお手本を見せて名前をつけてあげる必要があります。5〜6歳になると、より繊細な気持ちに名前をつけられ、2つの感情が同時に起こりうることも理解できる子が増えます。発達には大きな個人差があるので、決まった時間割にあてはめず、今のわが子に合わせてあげてください。
かんしゃくの最中に、幼児へ気持ちの名前を教えるには?+
その瞬間は、短く、まずつながることを大切に。同じ目線までかがみ、声を落として、見えているものを実況しましょう。「おもちゃが壊れちゃって、すごくおこってるね」。問いつめたり説明したりしないこと——あふれた幼児は、多くを処理できません。本当の学びは、あとの落ち着いた時間にとっておいて、絵本や遊び、毎日のふり返りを通して気持ちの言葉を練習してください。
子どもの気持ちの言葉を増やすには、どんな方法がありますか?+
絵本を読んでキャラクターの気持ちを聞いてみる、気持ちジェスチャーゲームをする、毎日「うれしかったこと・大変だったこと」をふり返る、指さしできる気持ちの表を貼る、そして自分の感情も声に出す——どれも効果的です。なかでもわが子が主人公になる名前入りの絵本は、言葉と、大きな気持ちを乗り越える身近なお手本を一度に届けてくれるので、とくに力を発揮します。
執筆 The Hello Storybook Team, 親であり、書き手であり、物語の語り手.
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